原子の多電子励起状態およびエキゾチック原子の構造と安定性
原子の3重励起状態
原子内の複数の電子が励起軌道に押し上げられた
高励起状態を多電子励起状態といいます.
従来,原子の構造は,原子内の電子がそれぞれ独立に運動するという
考えに基づいて理解されてきました.
しかし,多電子励起状態では,電子は互いに強く相関を持って運動するので,
むしろ電子の集団運動と捉えた方が
都合が良いと考えられています.つまり原子内電子は,核のまわりの平衡位置
に配置し,その近傍で,電子同士が相関を持って互いに近づいたり
退いたりするという捉え方です.
近年,実験と理論の双方で発展が著しい3電子励起状態について
の一連の研究を行いました.
集団運動を記述するのに優れた超球座標という座標系を用いて
原子構造について厳密計算を行い,多次元空間での波動関数を分析して,
集団運動の基準モードに基づく新しい分類法を提唱しました.
また,ギリシャ及び米国の実験グループと共同研究を行い,
多価イオン−原子衝突における3電子移行
からの放出電子スペクトルに現れる3電子励起共鳴状態を同定しました.
原子3重励起状態の電子密度
発表論文
“Hyperspherical Hierarchy of Three-Electron Radial Excitations”,
T. Morishita, O.I. Tolstikhin, S. Watanabe, and M. Matsuzawa,
Phys. Rev. A 56, 3559-3568 (1997)
“Hyperspherical Analysis of Doubly and Triply Excited States of Li”,
T. Morishita and C. D. Lin,
Phys. Rev. A 57, 4268-4274 (1998)
“Analysis of 1s2l2l' and 2l2l'2l'' resonances of He−ions”,
T. Morishita and C. D. Lin
J. Phys. B: At. Mol. Opt. Phys. 31, L209-L217 (1998)
“Visualization of correlations in intrashell triply excited states of atoms”,
T. Morishita, Y. Li
“Comprehensive
analysis of electron correlations in three-electron atoms”,
T. Morishita and C.D. Lin
Phys. Rev. A 59, 1835-1843 (1999)
“Identification and visualization of the collective normal modes of
intrashell triply excited states of atoms”,
T. Morishita and C. D. Lin,
J. Phys. B: Atm. Mol. and Opt. Phys. 34, L105-L111 (2001)
“Classification and rovibrational normal modes of 3l3l'3l'' triply excited
states of atoms”',
T. Morishita and C. D. Lin,
Phys. Rev. A 64, 052502 (19 pages)(2001)
“Radial and angular correlations and the classification of intershell 2l2l'3l''
triply excited states of atoms”,
T. Morishita and C. D. Lin,
Phys. Rev. A 67, 022511 (13 pages)(2003)
“Experimental
observation and theoretical calculations of triply excited 2s2p2 2Se,
2,4Pe, 2De and 2p3 2Po,
2Do states of fluorine”,
M. Zamkov, E. P. Benis, C. D. Lin, T. G. Lee, T. Morishita, P.
Richard, and T. J. M. Zouros
Phys. Rev. A 67, 050703(R) (4 pages)(2003)
エキゾチック原子の量子力学的安定性
陽子と2電子からなる一価負イオンH- は安定に存在しますが,
陽子と3電子からなる2価負イオンH2-
は安定であるか?という問題は,1970 年代より実験,理論計算,
及び数理物理的観点から数多く議論されています.
超球断熱ポテンシャルと集団運動モードを分析し,
準安定な共鳴状態を含めて安定な H2-
は存在しないことを示ししました.また,アルカリ金属原子に
ポジトロン(e+)は付着するだろうか
といったエキゾチックな原子の量子力学的安定性の議論を行いました.
発表論文
“Nonexistence of resonances in H2−”,
T. Morishita, C.D. Lin, and C.G. Bao
Phys. Rev. Lett. 80, pp. 464-467 (1998)
“Stable bound states of e++ Li and e++ Na”,
J. Yuan, B. D. Esry, T. Morishita, and C. D. Lin
Phys. Rev. A 58, R4-R7 (1998).
4電子相関
超球座標法の拡張として,4電子原子の励起状態についての研究を行いました.
4電子励起状態には,平面内の正四角形と,正四面体との2つの古典的配置が
考えられ,安定性を議論する上で興味深い対象です.
放射光を用いた精密分光学も行われ始めています.
4電子原子系に対して超球座標を用いて定式化行い,量子対称性に基づく
動径相関の分析を行いました.
超球座標での4電子波動関数
発表論文
“Hyperspherical analysis of radial correlations in four-electron atoms”
T. Morishita and C. D. Lin,
Phys. Rev. A 71, 012504 (2005) (9 pages)